事例「難関「割り算」を超えるまで
発達障がいを持った子どもたちの中には
「数学に驚異的な伸びを見せる」
子もいれば、
「たし算が困難」
「かずの規則性や概念が理解できない」
子もいます。
子どもたちが将来「仕事に就くこと」を考えたときに、
算数ができることも必要になります。
その算数で、最も難関な課題が
「割り算」です。
「なぜ、割り算が必要? 電卓でいいじゃないか」
と先生や保護者の方に何度も詰め寄られた経験があります。
「割り算」は単純に計算ではなく、
答えを出すまでの「手順を覚える力」
「ワーキングメモリー
(作動記憶=短い時間に情報を持ち続け、同時に作業を処理する力)」
「商を立てる数感覚」
などを身につけることができるのです。
まず、子どもたちへの指導は
「たし算」」と「掛け算」が
スラスラとできることを目指します。
たし算の導入は、
子どもの「かずに対しての感覚の鋭さや興味」に応じて変えます。
そして教える内容は
「10の数の合成と分解」…10になる組み合わせを学ぶ
「順序数」…1から順番に並んでいる数を学ぶ
「減減法・減加法など」
「暗記法」
などいろいろあります。
これらをひとつひとつ説明すると長くなりますので
機会があるときにお伝えします。
学校では、「たし算、ひき算、かけ算」と学習していきますが、
子どもによっては「たし算、かけ算、ひき算」の順で学習した方が
理解が進む子もいます。
また、子どもの生活環境によっても
習得しやすい課題(たし算、ひき算、かけ算、わり算)も異なってきます。
以前、「愛児園」の子どもたちを学習援助していたときに、
「わり算」に強い子がたくさんいることに気づきました。
私がお手伝いした「愛児園」は、
年齢の異なった子どもたち 5、6人と
指導員の先生2名が家族のように生活している施設です。
そこでは、いただいた物を「分ける」ことが当たり前です。
自分一人で食べるということはできません。
キャンディ一袋のうち、
自分が何個もらえていくつ余る、
その余りを自分がもらえるのか
など敏感になっています。
生活の中で「分ける」行為が
割り算の感覚を高めていたのでした。
自分の分け前をすぐに計算(暗算)できる年長さんは、
10個、20個の分前を計算(暗算)できても
100個、1000個の割り算は当然できません。
日常生活で大きい数に触れる機会がないからです。
また、かけ算も全ての段を覚えているわけではありません。
このように、学校で学ぶ学習課題の順番が
子どもにあった順番ではありません。
言い切ってしまうとお叱りを受けそうですが、
35年以上子どもの指導にあたった経験から、
「子どもにあった学ぶ順番がある」
と思っています。
様々な工夫をしながら
子どもに教育(学習)のアプローチしていきます。
しかし何度も
「学習なんていらない。
その子が公共交通機関に乗れることや、
身の回りができるようにすることが大事だ」
と詰め寄られることもありました。
しかし、障がい者や健常者関係なく
「生きることとは学ぶこと」
「学ぶことで、
人は自分の持っている能力に気づくことができる」
と言い続けてきました。
挑戦して学習して継続してこそ見えるもの、
身につくものがあります。
この身についたものは「学力」ではありません。
「学習力=生きる力」です。
「挑戦する心=積極性・行動力」
「継続する心=継続力・忍耐力
「創造する心=工夫力・創造力」
が身につきます。
この力の源が「わり算」学習にあります。
「わり算」の商を立てる感覚は、
①割る数と割られる数を見比べ、
どこに商を立てるか見つけることができる
②かけ算とたし算の十分な力がある
繰り上がりを覚えることができる
(二桁×一桁が暗算レベルでできる力)
③かけ算後の答えと割られる数の大小を確認できる
(商を増やしたり、減らしたりできる)
④かけ算の答えを覚えることができる
⑤ひき算ができる
⑥①から④が繰り返しできる力
が必要です。
わり算は、
「予測・計画」
「実行」
「点検」
「実行」
「点検」の繰り返し
を行っています。
当然、加減乗除の計算力だけではなく、
社会で必要な手順なども身につけることができます。
指導で発達障がい児が「割り算ができるようになった」というのは、
「点検=振り返り」ができるようになったということです。
それは、
過去の行動の点検や修正がやりやすくなるということです。
今まで、
注意されても過去の自分の行動と
今後の行動をどうしたらいいかが繋がらなかったのが、
過去の行動がどうだったか
今起きていることは何が原因か
そして、今後どうしたらいいか
がわかるようになる
たかが計算ですが、されど計算です。
わり算で「概算能力」が育てば、
就労した際、数の操作が楽になり、
「計画・実行・点検」が身につき、
仕事も格段にやりやすくなると思っています。
学習を通して、
子どもの能力=生きる力
を高めるお手伝いをしています。